WRAY

WORKインタビュー/中村玲奈さん
(後編)
「自分の時間にリスペクトを持つことを忘れないで」

さまざまなジャンルで活躍する女性に、ライフステージの変化が及ぼす仕事への影響やコントロールの方法、心身の悩みとの向き合い方について伺うWRAY・WORKインタビュー。
今回は、シンガポールでベンチャーキャピタルを経営する中村玲奈さんの【後編】をお届けします。仕事を十分まっとうしながら、心身健やかでいるために中村さんが取り組んでいることとは。

自分との約束を無視しない

人はハッピーじゃないといい仕事はできない

―中村さんから見て、働く時間が短くなったことでのパフォーマンスの違いは感じられますか?

少なからず感じています。けれど、そんなに大きな違いではないとも思っています。

パフォーマンスには2つあって、ひとつは生産性、もうひとつはアウトプットの質と量ですよね。どの国の人と比べても日本人は本当に勤勉で、最終的なアウトプットの質・量ともに高いと思います。けれど、その過程に休日返上で仕事をしたり、そこまでしてやる必要ある?ということを経ているのも事実で…。

私も駐在当初は、仕事に対してならどこまでも時間を使っていいと潜在的に正当化されていたのもあり、「あなた、すごくいい。でも、なぜそんなに時間を使う必要があるの?」と言われたことがありました。ハッとしましたね。人の時間を尊重する気持ちはあっても、自分の時間にリスペクトを持つことをしていなかったんです。

家族とご飯を食べたり、友達と会ったり、エクササイズしたりすることのプライオリティを2番目以降にしなくていい。自分の時間をきちんとつくることで切り替えもでき、結果的に生産性も上がったと思います。100点じゃなくても合格点でとりあえず出してみる、それでいいのだと思います。

―コロナ禍、働く時間の長さによってアウトプットがそう変わらないということもわかってきたと聞きます。

コロナ禍に改めて考えたのは、「人間はハッピーじゃないといい仕事ができない」ということです。

たとえばフランスなどの欧州圏の人たちは、これを原則として仕事をしている気がします。人として、家族や自分の時間を含めて満たされ、エネルギーがあるという状態じゃないといい仕事ができないとみんな信じているから、それがバランスよくできるように設計しようというマインドに自然となっていきますよね。仕事にすべてを捧げてとにかく成長を目指すだけではなく、違う形の豊かさもバランスよく追求することが必要だと思うんです。トータルで自分の人生にとってより良い生き方をしたいですね。

こういうことを言うと自己中心的な考え方だと言われてしまうかもしれませんが、個人の幸せや自由に対してお互いリスペクトを持つことは当たり前のことだと思っているんです。

―ハッピーでいるために、中村さんが行動に移していることはありますか?

自分にとって、絶対にこれはやっておきたい、これをやっておけば満足だと思えることって、いくつかあるじゃないですか。私は毎年年始に、今年これができたら満足!ということを決めてノートに書くようにしています。例えば、家族やパートナーと旅行に行きたいだとか、関心のある分野の本を読んで自分の好奇心に触れるだとか。決めたらそれを優先できるように予定も埋めてしまえば、忙しい方に引っ張られずに実行できます。

もうひとつは、自分との約束を無視しないこと。実はこれが一番難しいんですよね。自分に対して決めた、今週は自分のパーソナルな時間を取りたいから仕事はここまでに終わらせるというのも、意識しないとなし崩しになってしまう。ちゃんと守ってあげることでリズムを能動的に作っていくんです。実際仕事に流されそうになることもあるのですが、守る努力をすることが大事なのかなと思います。

―なるほど。もしかすると、自分を1番裏切っているのかもしれません…。

自分の約束をずっとオーバーライドし続けてしまうと、自分の脳も、重要なことじゃないんだと思ってしまうらしく、それを巻き戻すのはすごく大変なんですよね。そういう意味では、自分との信頼関係ほど大切なものはないなと思います。そんなこと言っても、私も自分との信頼関係を築けていない瞬間なんていっぱいあり、まだまだ努力は必要ですが(笑)。

―「WRAY」のコンセプトに、“後回しにしてしまいがちな自分を大事にしよう”というものがあるのですが、仕事、家庭、子育てと優先すべきものがありすぎて、自分自身を後回しにしてしまう女性も多いと思います。もっと自分を優先していいはずですよね。

昔、当時のパートナーに「無理やり一緒に合わせる必要はない。玲奈が今、優先したいことを一番に考えていいんだよ」と言われたことがありました。私がハッピーな状態で一緒にいてくれる方が自分も嬉しい、仕事のことを考えなきゃいけないときに無理やり時間を作って苦しむ必要ない、って。たしかに、コンディションが良い状態で100%その場に集中できている方が、お互いに幸せですよね。ディナーしながら仕事のことを考えられていたら私も嫌ですもん(笑)。

中村玲奈さんが訪れた旅行先にて

肌も心も。健康でいることは自信に繋がる

―中村さんはこれまでに、PMSなど女性特有の悩みを抱えられたことはありますか?

去年から、体の変化を感じ始めています。社会人になりたての頃は、ストレスからくる多発性月経を患っていた時期があったんですね。PMSはありませんでしたが、生理が何度もくることが本当に怖かったです。肌の調子も悪く、自信も失っていきました。女性にとって、肌はとても大切です。潜在的に、自分への自信に繋がっているのだと実感しました。

シンガポールに住むようになってからはリズムもライフスタイルも整い、リラックスした生活に変わったからか自然とその症状はなくなり、去年まではさほど大きな問題を抱えたことはありませんでした。去年以降、月経前のだるさや頭痛などを感じるようになりました。

―それに対しては何かアプローチはしていますか?

水分を摂る量を増やしました。現地のお医者さんによると、水分補給ができているかどうかで肩こりや頭痛も軽減されるとのことで、毎日多くの量を飲むようになって。頭痛などが改善されているように思います。

あとは、筋トレをずっと続けていますね。日本に帰ってきたときはジムに、出張や旅行で海外を訪れるときにはBARRE(バール)をすることにしているんです。ピラティスにバレエの動きを取り入れたようなバーエクササイズなのですが、どの都市に行ってもたくさんのスタジオがあるので続けやすくて。運動をすることで疲れも飛ぶので、訪れる場所では必ず予約しています。

―ジムを予約してから出張に行く、やっぱりそのコントロール力が素晴らしいです(笑)。

1年の半分は出張をしているのですが、出張って辛いじゃないですか…。30歳を超えたあたりからロングフライトが体力的にも大変で。体がもともと強い方ではなく、環境の変化にもセンシティブなので、どうやってコンディションを整えるかを考えた結果、着いてすぐにエクササイズに行くかサウナに行くと、私の場合は心身ともにすっきりすると分かったんです。あとは自己満足もあるかもしれません(笑)。いい気持ちになるおまじないというか。

中村玲奈さんが訪れた旅行先の海岸にて

仕事も私生活も、「仕組み」を使えるようにしたい

―これから、どんなふうに働きたいと考えていますか?

仕組みをうまく作って働きたいですね。今までは、自分の時間と自分の体を資本に、ひたすらアウトプットを頑張るということが必要だったんですよ。でもやっぱり、今後子どもができたり、年齢を重ねて自分の体力的な事情も変わってくるはず。そのときに同じ戦い方では、これまでと同じレベルのアウトプットを出すことは難しいと思うので、もう少しマネジメント的な視点を意識して働きたいと思っています。

メンバーの育成や会社の仕組みをうまく作ることで、組織としてアウトプットを作っていく。私含め、中にいる個人が生活や仕事とほかの部分とのバランスを取りつつ仕事のパフォーマンスを上げるような土台を作っていくことが、これから先2、3年の大きな課題ですね。

―仕事とそれ以外のバランスでいうと、海外では子育てや家事などもアウトソースする人がとても多いですよね。

はい。私自身シンガポールにいるときは、家事も時々アウトソースをしていました。家事以外のことをする自分の時間もとても大事だし、リーズナブルなコストでできることであれば、外に出すように意図的に動いていましたね。日本では家事のお手伝いを依頼しようとすると、かなり費用がかかってしまうようですね。

―そうですね。日本では文化的なことは少しずつクリアになってきていますが何よりリソースが足りません。価格競争性もないので、費用も高い。日本人はクオリティとセキュリティ、求めるものが高いので浸透するのは難しいのかもしれません。それに女性だけではなくて、一緒に暮らす家族にも関係します。

価値観は様々ですよね。でも、そこに対する自分なりの視点が持てたらいいですよね。ここは必要、ここは重要って。重要なものを人に任せるのもひとつですし。

あとは自然に触れること。月に数回ハイキングに行ってリフレッシュしています。働き方も時間の使い方も、根性論より脳の赴く方へ合わせていくべきなのだと、最近考えています。

昔は意志の力ですべてをなんとかするべきだと思っていたんですけど、意志ほど頼りないものはないというか、意志を信じて設計すると失敗してしまうと思うんです…。意志よりも仕組みが大事だと、最近とくに思います。仕事も家事も、やる気が同じ熱量でずっとは続かないじゃないですか。仕組み化していると自然と進んでいくと思います。

多様な働きかたを知ることで、どう生きたいかを考える視野が広がる

―中村さんのように海外で働きたい、という人もいると思います。転勤できっかけを掴むこと以外に、海外で働く方法はあるのでしょうか。シンガポールの現状はいかがですか?

実は最近、シンガポールに転職してくる日本人女性が多いんです。以前は金融関係のバックオフィスに駐在する人が多かったのですが、最近は飲食関係や美容関係など、手に職のあるいろんな職種の方が個人で出てくるケースが増えています。

そうでなくても、例えばシンガポールに進出する日本の企業の現地採用ポストを見つけて直で応募してもいいし、現地の企業にいきなり就職したっていいですよね。始める糸口がわからない、イメージができないから動けないことってあると思います。でもひとつでも方法がわかればするスルスルッと進む。ハードルが高いように見えますが意外と難しくないんですよ。今なら、職も人も方法も、探せばたくさん情報が出てきますから。

―最後に。WRAYのユーザーには学生や20代の方もいます。これから世界へ出ていく人や、就職や転職を考える人が、20代のうちにやっておいた方がいいことは何でしょうか。

月並みですけど、早いうちに視野を広げるということが大事だと思います。自分と同じパターンやコミュニティの人だけでなく、少しでも興味があるかもと思ったら、その業界の人に話を聞きに行くのもいいですし。今なら、SNSを通じて繋がることもできますよね。

もうひとつは、多様な働き方を知ることでしょうか。業種だけでなく、起業をしていたり、組織の中で働いていたり、フリーランスだったり、とにかく多様な働き方があります。それを知っていくと、仕事として何がやりたいか以前に“どう生きたいか”ということを考える視野が広がるんじゃないかと思います。

できれば日本だけでなく、日本以外のものも見られたらもっといいですよね。国によって、人生における仕事を含めた物事のウエイトのバランスが大きく違うんです。最初に決めた働き方が必ず合うわけでもないので、そのときに、こうだ!と思わなくても、若いうちにいろいろな価値観や生き方を知っておけば、後の選択肢や生き方のインスピレーションに繋がるはずです。

Text/Sonoko Fujii

中村玲奈さん プロフィール画像

中村 玲奈

慶應義塾大学卒業後、2010年にコンサルティング・ベンチャー投資事業を行う「Dream Incubator」に入社。同社のシンガーポールオフィス、米投資銀行の「Lazard」を経て、シンガポールのベンチャーキャピタル「Cento Ventures」に参画。現在はシンガポールを拠点に、ファッション・リテール関係のテクノロジーに特化したベンチャーキャピタル「Lyra Ventures(ライラベンチャーズ)」を立ち上げ、欧州・イスラエル・北米を中心にアーリーステージ投資に従事している。
https://www.lyra-ventures.com/