LIFEインタビュー/野沢和香さん
「20代の頃は悲劇のヒロイン状態だった」
さまざまなジャンルで活躍する女性に、心身の悩みとの向き合い方やヘルシーに過ごすための秘訣を聞くWRAY・LIFEインタビュー。vol.1は、モデル・野沢和香さんにお話を伺います。20歳でスタートしたモデルとしてのキャリアを歩みながら、ヨガインストラクター、アパレルのプロデュースなど多方面で活躍中。周囲の人が「会うと元気になる」と口を揃えるハッピーオーラ全開の和香さんも、20代の頃は“悲劇のヒロイン状態だった”と言います。心身を健やかに保つために日々取り組んでいることについて教えていただきました。
自分が落ち込んだ時に立ち直る術をもっておく
一挙手一投足をジャッジされることが当時は辛かった
―モデルとしてのキャリアをスタートして23年間、ずっと駆け抜けてこられた印象です。
ありがとうございます。もう23年が経つなんてびっくり。これまでに、いろいろなことがありました(笑)。
―20代を振り返るといかがですか?
モデルを始めたころは、毎日会社に行かなくていいし、モデルってなんて楽なのだろうと思っていました。今思い返すと、恐ろしいことを考えていたなと反省しています(笑)。けれどしばらく経ってから初めて、自分の努力によって叶わないこともあると思い知らされました。モデルはどんなに自分が頑張っても選ばれなければ、雑誌にもCMにも出られません。オーディションで「あなた脚が短いわね」と言われたり、私が落ちてしまったCMに友人が出ていたりすると、それはもうショックで。一挙手一投足を毎回ジャッジされることが辛かったです。ただ、当時の私はマイナスばかりを見つけては、ちょっとの不幸を“悲劇のヒロイン”みたいに考えていたところもあって(笑)。20代前半はたびたび、そういう感情に悩まされていた気がします。でも28歳のときにヨガに出合い、少しずつ気持ちが上向きになっていきました。
―元々ヨガを始めたきっかけはなんだったのですか?
みなさんガクッとなってしまうと思うのですが……生活のため、だったんです。当時雑誌に出させてもらってはいたものの、仕事に波もあり、本当に大変な時期があって。覚悟はしていたけれど30歳を前に将来を考えなければと思い、とにかくいろいろなことにチャレンジしました。その中のひとつがヨガだったのですが、これがものすごく合っていたんですね。ヨガは自分の心身と向き合うので、からだも心もだんだん健やかになっていくのを感じて。これならずっと続けていきたいし、これからもっと世の中に広がっていくだろうと思い、「全米ヨガアライアンス」というヨガ指導者の資格を取りました。ヨガには歳を重ねながら何度も助けてもらいましたね。自分が落ち込んだときに元気になれる術というか、お守りのような感じかな。そういうものを持っておくと心強いです。
興味のあることは“まずやってみる”の精神
―立ち直れる術を知っておく、ということですね。ちなみに、今も昔のように落ち込むことはありますか?
落ち込むことは、もちろんあります。でも今は、モデルの仕事がとても楽しくて、深く落ちこんだり、引きずることがなくなりました。その理由を最近考えていたのですが、モデルと同じくらい没頭できるものを見つけて、バランスが取れているからだと気づきました。忙しくて物理的には大変ですが、逆に心は落ち着いています。全力で気持ちを傾けられるものがいくつかあると、落ち込んだときにどれかが助けてくれて、結果それぞれの楽しさの純度が増すというか。打ち込めるものっていうのは、仕事じゃなくたっていいと思います。趣味でもなんでも、心から好きなことや心が喜ぶ時間を自分で知っておく。自分が落ちたときに、何が自分を元気にしてくれるのかの引き出しをたくさん持っておくのがおすすめです。
―楽しさの純度が増すだなんて理想的です。
モデル、ヨガ、ファッションディレクターと、3本の柱を立てていますが、今の暮らしの延長線上にあったのがこの3つだったという感じなんです。どれも大好きで。小さい頃、なんで私は何も上手にできないんだろうと悩んでいたこともありましたが、好きなことには本気で取り組めたんですね。その没頭力が自分の強みだとも思っています。今では、好きじゃないことに対して無理に取り組むことはやめました。
―好きなことは、どうやって見つけてきましか?
ヨガに出合えたときのように、“興味を持ったことはまずやってみる”精神でチャレンジしてみることでしょうか。最初から好きなことが見つけられたわけではありません。履歴書に書けるようなことを増やそうと、誰にも話していない失敗も沢山ありますよ(笑)。でもチャレンジを重ねていくと、ぴたりとハマることがあるんです。まずはやってみて、合わなかったらすぐにやめてもいいと思います。違うと思いながら続けるのはもったいない。自分に合わないものに気づけたことも財産ですよね。ワクワクに導かれたなら、続ければよいのだと思います。私の場合は、こうして好きなものを増やしたことで、自分が落ち着くバランスがようやく見つかりました。
毎日たった5分、何も考えない時間をつくる
―とはいえ毎日とてもお忙しいと思います。ゆっくりと休まる時間はどのように確保されていますか?
まさに今の課題は“切り替え”ですね。どれも手を抜きたくないし思い入れが強いので、ずっと頭でぐるぐる考えてしまって…。でもその中で唯一、毎日続けているのは「メディテーション(=瞑想)」です。メディテーションは、雑念がなくなり無になる状態と思っている方が多いかもしれませんが、ちょっと違います。どちらかというと、「雑念があるな」と気づく状態のこと。例えば普通、「怒り」の感情を抱いたときは「私、今怒っているな」と理解するのですが、メディテーションでは「今、怒っている自分がいるな」という捉え方をします。自分を俯瞰で見ているイメージですね。その感覚に気づけるようになると、感情から開放される瞬間が生まれて、頭がすっきりするんです。たった5分でも何も考えなくていい時間があると思うと、ご褒美のように感じます。
―メディテーションを続けてきたことで、変化はありましたか?
そうですね。例えば、怒っている自分がいたとしても、感情を真っ先に表に出さずに咀嚼してから落ち着いて伝えるという選択肢が生まれました。悲しくて仕方がない、でもそんなときに選択肢があると、悲しいけれど次はこうするしかないな、というふうにちょっと距離ができる。自分の方に手綱が戻ってくるというか。感情に振り回されていた自分が、ハンドルを握れるようになりました。そうは言っても、約束と違うことが起きたときには、卓袱台をひっくり返したくなることもありますよ(笑)。
―とくに出産後、怒りや悲しみなどあらゆる感情が絡まってしまう、という声をよく耳にするのですが、それを整理したいと思う人にとってもメディテーションは有効なのでしょうか。
とてもいいと思いますよ。PMSや更年期でどうしてもコントロールできなくなる感情の起伏にも瞑想のアプローチはおすすめです。ネガティブな感情がまったくなくなるわけではないけれど、ずっとその感情が続くわけじゃないことにも気付けるようになります。
最初のハードルは低く、決して無理しない
―和香さん自身は、どんなときに取り入れていますか?
私は朝が多いですね。なぜなら、日中はずっと頭がフル回転、夜もその延長線上にあるので、心身ともになかなか鎮まりません。でも朝起きたときというのは、寝る前にはぎゅうぎゅうだった考えが静まっているので、隙間ができているんです。なので、起きたときのメロウな状態を利用して床に座ってみる。その中で、「夕飯のことを考えている自分がいるな」「昨日怒ったことを今考えたな」など、ポツリポツリ浮かんでくるものと向き合っていく。たった5分でいいので試してみてください。
それ以外にも、私はよく、Apple Watchの瞑想アプリ「呼吸」を使って、移動時間にすることもあります。1分間、体がしたいままのペースで自分が息を吸っている、吐いている、をただ眺めてあげる感覚で呼吸をすると、心が鎮まる気がします。実はヨガを始めた当初は私も続けることができなかったのですが、この簡単な瞑想をまず1か月試してみようと始めてみたら、ものすごくフィットしたんです。これをきちんと続けられたことが、メディテーションが習慣化したきっかけでした。私にとっては、何年間も一生懸命メディテーションを勉強していたときよりも、すごく気楽な1分間のメディテーションの方が合っていました。毎日ちょっとずつが、1番いいんです。
ちなみに健康や美容のために私がしていることは、ずっと続けられるかを基準に選んできました。極端なダイエットや筋トレなど、自分の生活に根づかないものは手をつけないようにしていて。最初のハードルを高く設定しない、無理をしない、もし毎日できなくても深く考えない、そんな心構えで暮らしていくと、ご機嫌でいられるんじゃないかなと思っています。
―最後に、和香さんが思う、ご自身の魅力は何だと思いますか?
難しい(笑)! そうですね。小学生のころ、祖母に「あんたが来ると明るくなるね」と言われたのが嬉しかったんです。末っ子で不器用で何一つ最初から上手にできない私でしたが、自分には人に元気を与えられる才能があるのかも、と思って。それなら自分にもできるかもしれないと、これまで生きてきました。最近よく言ってもらえる、「会うと元気になるね」「いると明るくなるよ」というのは、それが伝わっているということなのかなと思い、言葉をもらえるたびに、私こそ元気になれます。根本はきっと、小学生の頃から変わっていないんですけどね(笑)。
野沢 和香
ファッションモデル/ヨガインストラクター
数多くの雑誌やCM、テレビ番組で活躍。 2007年に全米ヨガアライアンス(ヨガ指導資格)を取得し、 1つのスタイルにとらわれないヨガを指導している。また、アパレルブランドとのコラボレーションでは発売と同時に商品が完売してしまうという人気ぶり。9月にはBAYFLOWから自身プロデュースのスポーツウエアブランドがスタートする予定。
Instagram:@wakanozawa